ダーバビル家のテス(トーマス・ハーディー)2011年03月19日 10:44

君はある時この作品を読むようにと薦めてくれました。
数ヶ月後、君は仕事で日本に来られ今回はわざわざ札幌まで足を運んでくれ、奥さんのAnneと3人で食事をしながら再びハーディの小説が話題になった時、私は心ならずも「テス」を読んでみたいと答えました。心ならずもというのはこの小説に対する厳しい評価が当時のイギリス国内にあって難しい小説なんだろうとそれほど読みたいと思っていなかったたからです。また日本でも読者層が限られ、それほどポピュラーな文学作品ではありません。するとAnneが目を輝かせながら「あなた本当に読んでみるつもり」といわんばかりに私たちの会話に聞き入っていたことを憶えています。あのとき私は彼女が『あれは素晴らしい小説ですよ』と声には出しませんでしたが、そう言っていたように思えてなりません。やっと読み終えた今、この「ダーバビル家のテス」という小説が彼女のみならずイギリスの全女性の魂を震撼さずにはおかない極上のラブストーリ作品であることを私は確信したのです。
読んでいる最中は何度も投げ出したい気持ちに襲われました。それというのもこの物語の悪を代表するアレックという男の風上にもおけない女たらしが何度も登場しテスを苦しめるからです。こんなストーリーはもうごめんだ、
止めた、どこがいいんだと作家ハーディーを恨みました。しかし私はハーディーの「帰郷」という素晴らしい作品を読んで知っていましたからきっといつかは読者を感動させてくれるんだろうとじっとこらえながら読み進めたのです。そして最終章でこの物語は大団円を迎えます。あの憎きアレックをテスはついに殺してしまうのです。私は殺されて当然だ、当たり前の行為を彼女はしたまでだ。やっと胸のつかえがおり,
すがすがしい気分にさえなりました。よくぞやったという気分です。殺人という重大事件にホッとするというのもおかしな感想ではありますが。こんな悪党が世の中にはびこること許されていいはずがありません。しかしあの心優しい、聡明で美しいテスが殺人者となって指名手配される訳です。そしてエンジェルと愛の逃避行が展開されていきます。しかしテスは何も恐れませんし少しの後悔もありません。愛するエンジェルといまこのように一緒に居れるということがテスの無上の幸せでした。
二人はどんどんどんどん追手から逃げていきます。エンジェルもまた少しも自分の行動を恥じていません。まるで神からの使いのようにテスを守るのです。その展開は実に崇高であり、涙せずには読めませんでした。最後はあのイギリスであまりに有名な史跡「ストーンヘッジ」でテスは捕らえられます。何日かの後、処刑を暗示しする黒い旗が大きな赤煉瓦の建物のそばに掲げられます。エンジェルは丘の上からその黒い旗に向かっていつまでもいつまでもこうべをたれるのでした。
本当になんという悲劇の小説でしょう。私の心をふかく揺さぶり涙が止まりませんでした。つらい小説ではありますが男女の究極の愛をつづった物語りです。私は恋愛小説はあまり好きではないのですが、この小説は別格です。そしてトーマス・ハーディーという作家の凄さをあらためて思い知らされるのです。正しい裁きなどというものは決してこの世に存在しないのだということを彼は言いたかったのではないでしょうか。
それだけにこの小説が精神性を重んじる、敬虔なキリスト教国家イギリス社会では受け入れがたく彼に対する批判が強かったのだと思っております。一方私はハーディーの考えに深く共鳴しないではおられません。長く心に残る作品です。良い小説を紹介していただきありがとうございました。君のおかげで偉大な作家を知ることができました。
いま日本はニュースでご存じのとおり未曾有の大災害を受け、深刻な危機にあります。いつかは必ず復興するでしょう。日本を愛してくれる君がまた日本を訪れてくれることを願ってやみません。エリザベス女王陛下、キャメロン首相はじめイギリス国民の多くの皆さまから暖かい励ましの言葉をいただき衷心より感謝申し上げます。

では
Anneといつまでもお幸せに。
またお会いしましょう。
さようなら

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